低品質なYouTube動画が乱立している話

一昔前まで、YouTubeに動画投稿をする人はさほど多くなく、YouTubeを観ているのはキッズだけという風潮さえあった。

当時はニコニコ動画が流行っていて、今はYouTubeで活動している大手実況者の中にも、ニコニコ動画で動画投稿をしていた人は多い。しかも動画投稿で稼げる時代ではなく、むしろニコニコ動画にお金を払って動画投稿をしていたと記憶している。つまり当時の動画投稿者は生粋の物好きであり、100%趣味で動画投稿をしていた。

現在ではニコニコ動画が衰退した代わりにYouTubeが台頭し、YouTuberという言葉も生まれた。YouTubeで動画投稿をすればお金を稼ぐことができるという認知が広がり、多くの人が様々なジャンルで動画投稿をするようになった。YouTubeは一大プラットフォームとなり、検索エンジンのような使い方もできるほどだ。

しかし一方で、参入障壁の低さから、低品質な動画もYouTube上で散見されるようになった。「金を稼ぎたい」という気持ちが先行するがあまり、低品質な動画を作って金稼ぎに明け暮れている悪人がいるのだ。

低品質な動画例1:視聴者を騙す動画

低品質な動画の例は、視聴者を騙す動画だ。最近だと、「AIを使って1日15分で30万円稼ぐ!?」というような動画が良い例だ。

このような動画を見てみると、確実に違法なことをしているわけではないし、一見するとロジックもしっかりしているため、「この動画を実践すれば稼げる」と思ってしまう視聴者もいるだろう。しかし実際はそんな甘い話はなく、本当に1日15分の作業で30万円を稼げるのであれば、毎日満員電車で揺られて会社に向かっているサラリーマンは存在しない。

例えば、「Lofi音楽をAIで作って稼ぐ」という手法はよく紹介されている。作業時や睡眠時などに聴く音楽と、背景画像をAIで作ることで、誰でも収益化できるという内容だ。確かに、Lofi音楽の最大手チャンネルは登録者1000万人を超えていて、想定収益額を検索できるサイトによれば数千万円の収益だそうだ。しかし音楽系の動画は途中に広告を入れられないという性質上(音楽の途中で広告が入るチャンネルを聴きたいと思う人はいない)、実際の収益額は想定を大きく下回っているだろう。さらに、今やLofi音楽の競合は山のようにいて、素人がAIで音楽を作ったからと言って再生されるものでもない。実際、全く伸びずに放置されたLofi音楽チャンネルは山のようにある。「ヒカキンやはじめしゃちょーのように、YouTuberは億を稼げます!あなたも始めませんか?」と言われると「無理だしやらない」と思うのに、「AIで音楽を作って公開すれば人気チャンネルになります」と言われると乗り気になる人がいるのは何なのだろうか。

Lofi音楽に限らず、AI副業系の情報を発信しているチャンネルはかなり増えている。ChatGPTやStable DiffusionといったAIツールが世の中に出てきて非常に話題になったからだ。これらに共通して言えるのは、「誰でも簡単」「ノースキルでも稼げる」「一撃で大金を稼げる」というような文言が付いている場合、99.9%は嘘情報だ。誰でもノースキルで取り組める仕事は参入障壁が低いということであり、ほんの一部の人だけが一時的に稼ぐことはできるかもしれないものの、ほとんどの人は1円も稼げずに終わる。「AIで」稼ぐことができるのは、こうした事実を知らない情報弱者に向けて情報発信をしている悪人だけだ。

このように、視聴者を嘘情報で煽り、再生数を稼ごうとするチャンネル/動画が少なくない。再生数を稼ごうとするだけならまだマシだが、オンラインサロンに勧誘して金を巻き上げようとする悪人もいて、視聴者が実害を受ける可能性もあるのだ。

低品質な動画例2:AIで雑に作成した動画

先程のAIに関連して、低品質な動画として、AIで雑に作成した動画が挙げられる。

AIで作成した動画を全て見抜ける訳では無いが、中には明らかにAIで作ったことが丸わかりな動画がある。声や背景画像などがAIのものだからだ。AIで動画を作ること自体に関しては特に問題視していないが、その雑さが問題なのだ。

例えば、動画の声とテロップがズレていると、その動画を観る気が0になる。通常、テロップは発声と同時に表示させるのが基本であり、それができていない動画ははっきり言って質が低いし、動画への気持ちが乗っていないと言わざるを得ない。おそらくAIが作成したものをそのままアップロードしているだけなのだ。台本もAIで作ったとなれば、AIが出力した情報が正しいかどうかのチェックもできていない可能性が高く、そのような動画の信頼性はない。AIはただでさえハルシネーションが多いのに、ファクトチェックをしていないのは大問題だ。

動画を世の中に公開するのであれば、ある程度の責任を持つべきであり、AIが出力した動画をそのまま公開するというようなことは避けるべきだ。

低品質な動画例3:別サイトからコピペした動画

別サイトからコピペしただけの動画も、低品質な動画と言える。よくあるのは、「◯◯の読者の反応」というような動画だ。観た限りでは、これらの動画は、アニメ/漫画系の掲示板への投稿をコピペして動画にしているだけであり、はっきり言ってオリジナリティは0だ。実際、全く同じタイトルで、内容もほぼ同じ動画を2つ以上目にしたことがあり、複数の人間がコピペ動画を作成している。

同じような動画に、切り抜き動画がある。大元となる配信を切り抜いてテロップを付けているだけなので、見方によってはコピペ動画と言える。

これらのコピペ動画はオリジナリティがなく、量産されがちという問題点があり、YouTubeを汚染している。

動画投稿が金稼ぎの一手段になっている

今やYouTubeへの動画投稿は、金を稼ぐための一手段だ。金を稼ぐことは良いことだが、いかに楽に稼ぐかを皆躍起になって探していて、その結果が現状のYouTubeだ。

YouTube然り、Google検索然り、SNS然り、利用すれば金を稼げるということが知れ渡り、それを「悪用」しようとする人が増えすぎている。YouTubeからすれば、視聴者が広告を再生してくれれば何でも良いのだろうが、広告を認可する動画の質をもう少し考えてほしいものだ。